金曜プレステージ 夏樹静子 作家40年記念
第三の女
[CX]
2011年12月2日(金)21:00~22:52(全1話)
パソコン画面に浮かび上がるチャットの文字―<その男を殺してやりたい>、<私にも、殺してやりたい女がいます>。男はパリで開かれる学会の後、女はフランスで所用を済ませた後、パリ郊外・ルアーヴルのひなびたゴシック調のホテルで対面することになった。男の名は国立北九州大学医学部に勤務する小児科医・大湖浩平。ほの暗い室内で大湖が女の存在に気づいたその瞬間、突如雷鳴が轟く。照明の消えた一室で引き寄せられるように唇を重ね、結ばれた二人。心に殺意を秘めた者同士。二人はチャットでその思いを語り合っていた。女が殺したいという女、その女は2年前にある人を殺したという。その日から、女はその女を殺さなければと心に誓って生きてきた。大湖は上司である医学部の悪徳教授を殺したいと女に打ち明けていた。その教授は発ガン性物質を含んだ食品を販売している企業と癒着し、子供が犠牲になっているにもかかわらず、その事実をもみ消そうとしていた。暗闇の中でお互いに殺したいほど憎い相手の名前を告げ合う二人。“国立北九州医大の吉見昭臣教授”、大湖は女にそう伝えた。“あなたが殺したい女は?”、大湖の問いに女は“永原翠…箱根にあるホテルの娘で、氷のように冷たい心の傲慢な女”と答えた。大湖が女の名前を尋ねると、女は自らを鮫島史子と名乗った。顔もよく見えない暗闇の中での密会。大湖が我に返ったとき、室内に残されていたのはゲランの香り、そして史子と名乗った女の黒いロングカーディガンから落ちたボタンだけだった。そして、この日の思い出は大湖の心に深く刻まれた。
日本に帰国した大湖は、箱根に向かう。史子に教えられたホテルの近くで目にした永原翠のピアノコンサートを告知するポスター。ちょうどホテルに向けてカメラを構えたその瞬間、出会い頭に自転車に乗っていた娘とぶつかってしまう。娘の名は永原茜、翠の妹だという。茜は大湖に一目ぼれに近い思いを感じて胸がときめいた。
大湖が勤める北九州の大学病院では、また一人、食品事件の被害者である少年が息を引き取った。吉見昭臣教授に駆け込む大湖。しかし、吉見は発ガン性物質など一切関係がないと、取りつく島もない。そんなある日、大湖に不動産屋から一本の電話がかかってくる。“鮫島さん”から大湖に物件の紹介を依頼されたという。“鮫島”と聞いて、不動産屋に急行する大湖。そのころ、市内のホテルでは製薬会社が主催した吉見教授を囲む会が開かれていた。そこに現れた黒いコートを身にまとった謎の女…。その後、大湖は彼を訪ねてきた薊野刑事から吉見が不審死したことを聞かされる。私のアリバイを作った上で鮫島史子が実行したのに違いないと確信する大湖。今度は自分が手を下す番だ…。箱根のホテルでは永原翠のピアノコンサートが準備されていた。会場を見渡した大湖に、翠の恩師らしい老夫妻とこちらに背を向けた黒いドレスの女が目に入る。鮫島史子が殺したいほど憎いという永原翠の演奏が始まった。そこに、翠に鋭い視線を投げつける和服美人がいることに気づく大湖。満場の拍手の中で、その女性・久米悠子だけは拍手をしていなかった。そのとき、恩師夫人が黒いドレスの女性に向かって“フミコさん”と呼びかけるのを聞いた大湖。この女性が鮫島史子なのか…。もう一度会って確かめたい。はやる気持ちを抑え、フミコに近づく大湖。そのとき、背後から声をかけられる。振り返ればそこに茜がいた。茜によれば、姉の翠には最愛の恋人がいたが、2年前に自殺、まだその失意から立ち直っていないという。その恋人・久米倫也には妻がいて、翠とは不倫関係にあったという。茜は大湖に魅力を感じていく自分を抑えられなかった。
永原邸のそばまでやってきた大湖。玄関先では姉妹が何やら会話をしている。茜がスポーツカーで出掛けたのに続いて、翠が犬を連れて出てきた。尾行する大湖。辺りに人影はない。鮫島史子との約束を果たすには今しかない。ナイフを握りしめる手に力が入る。この女を殺したいほど憎んでいる鮫島史子は今、どこにいるのだろう…。どんな思いで何をしているのだろうか…。
【原作】夏樹静子「第三の女」角川文庫
【脚本】長坂秀佳
【出演】村上弘明、菊川怜、小沢真珠、高橋かおり、中山忍、秋本奈緒美、佐藤B作、深水三章、津川雅彦 ほか
【製作著作】テレパック
【プロデューサー】森下和清